「お母さんはさあ、お父さんと出会って結婚してからすぐに茉菜を授かったけど、それから何年もしないうちにお父さんはいなくなっちゃったでしょう? 思うのよね、もっと早く出会えていたら、もっと早く結婚していたら。この人ともっと長く一緒にいられたのにな、って」


 お母さんは昔を懐かしむように、優しく寂しい笑みを浮かべながらあたしに語りかける。


 それを静かに聞きながらお母さんの話に聞き入ってしまう。


「お母さん思うんだけど、桐島さんってちょっとお父さんの若い頃に似てるのよね」


 たしかに写真で見たお父さんは桐島さんとはタイプが違うけれど、全体的に整っていてかっこよかったように思う。


「お父さんに似ている人を茉菜が好きになって、お母さん、ちょっとだけ嬉しいんだ」


「そうなの?」


「うん、そうなの」


 あたしの頭をよしよしと撫でるその手はかさついて、ちょっとだけ固い。


 だけど小さい頃ぶりに撫でられるその感触が懐かしくて身をゆだねた。