まだ部屋の外で話しているお母さんの声を背後に聞きながら、口を開く。
「……桐島さん、大口契約なくなっちゃいましたね」
本当に言いたいのはこんなことじゃないのに、口をついて出たのはしょうもないこと。
桐島さんはさっきまでの営業モードをやめて、素に戻って上を見上げながら凝っているらしい首を鳴らした。
「あー、バイトの時間増やさないとなー」
「それってあたしのほかにも誰かを受け持つってこと?」
「まあそうなるかな」
「ふーん……」
うちとの契約が大きいから、家庭教師のバイトはあたしだけだって桐島さんは前に言っていたことがある。
それがなくなるからほかにバイトを増やすのは当たり前のことなのかもしれない。
でも、あたし以外の女の子を受け持つことになったらいや、だなあ……。