人工の空は曇り。相変わらずよくできている、と思う。
 出発の日にしては生憎だけど、気分は曇らないように。
 ゴトゴト揺られながら思う。
 デコボコ路を車が走っていく。
 どのくらい走っただろう、人気のない景色は個人的には好きだった。
 風も天気も人工物、それでも心地よい。こんな自分が、懐かしいと感じる。
 知識の中にある風景と流れる風景は似ている。どこにでもあるような眺めだから当然なのかも。そう感じる心が、まだこうしてあった事が嬉しい。
 何年ぶりに目が醒めたのかわからないけど、まだあってくれた事が。
 どうせならば草や花の匂いを嗅ぎたかった。懐かしいと視覚だけではなく、五感すべてで感じたかった。そこまで願う事は我侭なのかな。
「お空、くもっているね」
 リンがそう言う。とても残念そうに、晴れた日を惜しむように。
 まったく同感だ、昔はそんな日を妬んでいたけれど。強くそれを感じられた時ほど、嬉しかった事はない。
「空、晴れないかな」
「天気になってほしければ、寝て待ってみたらどうだ?」
 時折何を考えているかわからなくなるほど、この人は掴み難い。
 それでも寝て待ってみるのも悪くないかもしれない。