逃げる事、約数分。
 それだけで速度は落ち、所々被害を被ってまともな飛行しか出来なくなった頃。
 コクピットでは、喧しいほど警報が鳴っていた。
 うるさくて、耳を塞ぎたくてもそれは出来ない。この片手を手放してしまえば、操縦は出来ない。
 飛行形体になった時から、操縦はコンソールとレバーコントロールではなく、昔の戦闘機式の内装になっている。
 だから彼ならば辛うじて片手だけでも大丈夫なはずなのに。
 折れて血まみれになった左手は、きっともう使い物にならない。
 いくつか重要な機構もやられたようで、先ほどから機銃さえも使えない。エネルギー漏れも生じ、爆発までのタイムリミットは限りなく短くなっていく。
 私は、一体何をしているのだろうか。
 こんなところで、こんなにも死にそうになってまで。一体、何をしにここにいるのだろうか。
 そんな疑問が湧き上がる、同時にそんな問いを投げかけられた少年の姿も。
 答えがない者の気持ちはこんなものなのか、答えを持った者の気持ちはどうなのだろうか。
 そんな、この場に関係のない事を考え始めた。

「……やめた。そんな事をしても、まったくの無意味」

 そう、無意味である。だから、こんな事をするのはもうやめよう。
 無駄な事をするのはやめて、尻尾を巻いて逃げてしまおう。

「(すみませんね、隊長。私は、ここで逃げさせてもらいますよ)」

 誰に言うわけでもない言葉は、そのまま飲み下した。
 最後のエネルギーを振り出して、最速で機体を動かした。突然の事に対処が出来なかった無人機たち、だがそれは一瞬の事。
 実弾兵装、ビーム兵装、あらゆる弾丸銃器を用いてダージュの乗った機体を落としにかかる。