碧の液体が充満したカプセルの中、その裸体を隠す事なく浮かんで眠っている少女がいた。とても見覚えがある、何一つ変わっていない少女。
 備え付けのモニターに掲示された文章は短く、その名前を示している。
 実験体一号、と。
 様々なケーブルが付いて、時折痙攣して表情を歪めた。だが目覚める事はない、決してそうならないよう制御されている。人間に対する、扱いとは思えない。
 そのずっと奥、機材に囲まれた奥には何かが眠っていた。厳重に封をされ、かつ慎重に成果を出そうという結果が見て取れる。そこには幾人もの研究員がいて、見覚えがある者がたった一人。
 バルザック・アザトースがいた。今と、寸分変わらない姿で。
 何一つ変わらない光景を忙しなく歩く彼ら。そんな中、少女でもなくバルザックでもなく、まったく違う第三者にショウは目をつけた。
 声もなく喚き続けている、押さえつけられた青年の姿。
 青年、というには若すぎる気もしただろう。実際すまなさそうにしている研究員もいるから、おそらく同僚。そう考えれば、三十代は越えているだろう。
 そんな彼を、忌々しそうにバルザックは見ていた。

「父親だよ。彼女の」

 半ば予想は付いただろう。あまりにも熱心な姿は、彼らを止めようとしている。ならば、関係者以外の誰だというのだ。親しい関係者以外の。
 もっとも、研究員の間柄を捕らえられなければ、きっと少女の恋人と取っただろう。
 バルザックの説明は続く、この男の出で立ちを。とある学会を最高と謳われ出た者は二人いた、このバルザックと少女の父親。
 名前など当の昔に忘却したそうだ、それほど忌々しかったのだろう。
 その学会を出た時の、半分の年も食っていない若造に並ばれたのだから。
 そして一早く『イクシアス』にも辿り着いた。