それ以上は許さない、と。
 これ以上は許せない、と。
 一人を境に震える手が、彼の背中に押し当てられた。たった一人の少女を巡って、二人の男は此処にいる。

「何故邪魔ばかりする。私の悲劇の何一つを、その娘の残虐さの何一つも知らないで」

「関係ないだろう。事のすべては過去にあったとしても、大事なものは今この瞬間だ。例え何があろうと、俺の心は変わりはしない」

 名前を呼びたかった。縋って泣いて、子供のように思うが侭に。
 だが、それをどうして許してくれる者がいるだろうか。二人の時を邪魔できる術を、この老人は持っている。本当にそうか、と。静かに爆発する原爆を、バルザックは投下した。彼のその一言を待っていたと、歪な三日月は一層深く欠けていく。

「ならば聞け。そして、自分の価値観を呪うがいい」

 取り出したのは、一枚のDVD。それが何なのか、予想も確信もしたレナはただ青ざめた。

「……やめて。いやだ」

「目を逸らすなよ! これが、過去に起きた現実だ!!」

 少女の声が、少女たちの声が、木霊する。それは、過去の惨劇の始まり。
 長く短い、無限な瞬間な、本当の出来事。