表情は崩さず、どう対処すればいいのか思考が廻る。一の思考は二つと考え、その二つのうち一つがまた新たに二つの思考を持つ。これで合計十もの思考が稼動する。すべてが異なる視点から、あらゆる可能性を模索して解決策の要求をする。
 答えは、常にエラー。データが不足、状況把握が曖昧、展開想像出来ず。要するに、彼自身がすべてを失敗させていた。何事も、まず動かなければ始まらないというのに。

「名か」

 二言だった。文字にして二言、それだけにショウは震えた。決して気取られてはいないだろう、しかし彼は飲み込まれつつあった。
 明るい彩色は、この上ない暗色の前に無力なのか。

「今はまだ、墓石に沈む前の骨群ではないのでな。名乗らせて、もらおうか」

 笑みだと、それが笑みだとでも言うのか。まんまるいお月様からは紅い雨が降り、欠けた三日月からはたらたらと溢れて。

「この名は。バルザック・アザトース」

 アザトース。「外なる神」の一柱。クトゥルー神話における主神とも言える存在。「盲目にして白痴たるもの」「深淵の魔王」、地球という星から遠く離れた、混沌が渦巻く場所で、従者たちのフルートの音色を聞きながら冒涜的な言葉を喚き過ごしている。そんな姓を持って、だがなんら違和感がない。その容貌、その在り方、すべてが外なるものに相応しくはないか。