そこは、外よりも暗かった。宇宙空間という、明かり一つない世界よりも。
 天使は二人に別れていた、そこが狭かったわけじゃなく力が尽きたために。空間に働きかける魔術など、その上対象を任意の場所まで飛ばせるという快挙は、想像以上の苦痛と疲労感の前に成功を遂げた。

「…………初めまして、というべきか」

 答えなどない。だが、そこにいるのだと確信した。
 闇の奥で、爛々と光る視線を感じ取って。

「自己紹介が必要か。ならば、こちらから名乗らせてもらおう。そうすれば答えるか、名のない木石ではないだろうから」

 敵意ではない、殺意でもない。ただ冷たい。温度なんて始めからなく、ただ触れれば凍りつきそう。己の感情を制御しつくした、魔術師然としている。
 闇に響く氷の音。俺はショウ、と。
 余分な事は何一つない、お前の名は何だと答えを急かす。
 そこは鋼鉄の間。黒く暗い鋼鉄の間。そこから、剣戟よりも高い靴音が鳴る。光を発する視線が揺れ、深遠の中から一人の老人が現れた。骨と皮だけで構成された肉体、落ち窪んだ瞳、あらゆる色は白であったが滲み出る生気からとても薄汚れて見える。だから、たった一目で理解する。これは駄目だと。
 する気のなかった話し合いなど無意味、どんな言葉も届かない。一太刀の下切り捨てる事は容易でも、何かが違うと一生付き纏う怨念めいた疑問が残る。