蒼い雫が昇っていく。
 降り注ぐはずのそれは、時間の逆行を思い浮かばせる。
 叩けば割れる水滴は、音速を越え啼けない大気を震わせた。

 その動きを捉えただろう。直撃を悟った機体は、動こうとはしなかった。
 自らの性能を信じ、高密度なエネルギー体を分解してくれると。
 だが。

 炎の花が咲いた。
 黒煙を上げ、赤ん坊の声を上げて。
 敵の中で、初めて犠牲者が出た。

 それは本来狙撃用のエネルギー。いくら圧縮された高密度であろうと、その装甲の前に秒単位で待つ事なく分解される。それを突破したのは人間の知恵だった。
 ビームの軌道の真後ろ、正確精密な実弾をほぼ同時に撃ち放った。
 ただそれだけの事、分解したビームの背後から現れた実弾が動力を捕らえただけ。
 真に恐ろしいのは、それを可能にした人の腕。
 神業とも言える狙撃を成功させた男だった。

『先遣隊に告げる、戦闘を放棄するな!』

 いつかの誰かの声だった。
 ほんの少しだけ前だったのに、とても懐かしい声だった。
 それは前回の戦闘に参加し、ここに生き残った者だけがわかる声。
 奇襲を成功させた隊長の声。