ある角に入ってから、急に目標が動く事はなくなった。しかし見失わない。隠れ入った路地はやけに広い一本道で、脇に外れる道はない。大きな二つの建造物に挟まれた通路。猫でも乗り越えてゆける隙間はない。入口は二つ、そのどちらも張っておけば決して逃げられはしない。
 しかし、確実に捉えるなら真上から捕らえておけと。
 それを怠った時点で、出し抜かれる事は必定だ。
 重く低いエンジン音。それが何をするか、唐突に理解出来る者はいない。追跡していたすべてが有人機という事が拍車を掛けた。正確無比なEXCASであれば、その音源がなんであるか理解出来ただろう。
 路地から抜け出す、高速移動する物体。
 速度は尋常ではなく、警戒していたOSの下を潜り抜けた。
「やられたっ! 対象は車で逃走した」
 通信を流し、逃げただろう路地へと向かう。
 そこは薄暗く狭く、どこを走っているかは舞い上がる土煙で判断するしかない。
 速度はリミッターを解除したのか。路地は一直線ばかりだが撒けるだろう。それは追う対象が一人だけの話だ。
 通信を流し、近くにいる味方を集める。
 無理矢理囲めば、命が惜しい限り止らずにはいられない。