優しく柔らかく、強張った男の手を包んだ。蛍色の淡い光を湛えた微笑が近い。

「ここにいます。何処にも行きません」

 遠く感じては意味がない。
 どんなに近くても、それが余計に寂しくさせるから。

 固まった指が解かれ、余分な力が抜けて包み返した。
 彼女のような微笑を浮かべる事は出来ない。
 代わりに、大丈夫だと微笑んだ。
 そうは思えない、けれど力強い。自分で何とかしていくと、そう決めて歩き出す心変わりした顔。
 近いのに遠い、それが寂しい。
 だから遠ざけるのか。
 遠くにやれば、寂しさからは逃れられるが、同時に新たな寂しさに襲われるだろう。
 心境が変わったためどうしようもない。昔に戻れない以上、どちらを選ぼうと寂しさに纏われる。
 理解したい。
 何より先に彼の中から願望が湧いた。