固い床にグラスが割れる。
 血のように赤いワインが飛び散り、獣の遠吠えが木霊する。

 暴走した彼岸花を、制御権を自らの手に戻す事なく視界を共有して、此度の戦争の一部始終を見ていた。

「イクシアス。真逆、魔術師があそこまで。TYPE00と組んだ事から、それなりの強さはあると予測したが」

 当時の光景を思い出す。
 研究に集中し、多くの犠牲を出し、遂にそれは完成した。
 だがそれはすべて崩落した。
 研究成果は、突如現れた悪魔によって滅ぼされた。
 なす術もなく、無残に蹂躙され消滅した。
 長年積み上げた、文字通り血と汗の結晶は何もしていないに等しい。
 悲鳴と恐怖に狂い死んでいく、転がる虫けらと同じだった。
 忘れられない、あの屈辱的な狂気を。
 忘れようがない、あの戦慄させた現象を。
 空を黒く染め上げた、星を殺した強大な悪魔イクシアス。
 それを生み出した初源の男を、二度と忘れる事はない。