「行くよ、走れるかい」
 聞くだけ無駄だ。走るだけの体力があってもショウには追いつけない、何より心が折れかけている。こんな状態で走れるほど、彼女は人間が出来ていない。
 俯く少女を気にせず背中を向けて座り込んだ。
 流石にそれの意味、この年代の少女にも理解は出来た。
「急ぎだから無理にでも連れてく。乗ってくれないと、絶対に動かない」
「……わかった、よ」
 背中に掛かる重さを確認すると、一目散にショウは駆け出した。
 決して背後は振り返らず、けれど真っ直ぐに目的地には行かない。残りの民間人を探している可能性が棄てきれないためだ。可能性は低くとも、敵から隠れるために。路地を抜けて角を曲がり、直線を駆け抜けた。
 走る走る走る走る。
 曲がる曲がる曲がる曲がる。
 進む進む進む進む。
 遂に気づいてしまった。
 もう、引き返せないところにいると。
 敵の動きは奇怪だ。追いかけるなら、常に見える位置にいるのはおかしい。その答えに随分前に気づいた。徐々に視界の端から見える敵軍が増えてきた。数が増えてきたのか、多く屯している場所に追いやられているのか。
 どちらでもいい。
 問題は、
 もう逃げ切れないという事だ。