コツ、コツ。

 堅く暗い床を誰かが歩く。
 ショウという空間に、言葉の松明を灯すため。

 五つ。
 春の訪れを告げる、桜の花が待っている。
 樹はまだなく、暖かな炎の周りに飛び交っていた。

「君はもう、独りじゃないよ。
 何処にいても。
 どんなに悲しくても。
 わたしが隣に、いてあげるから。
 だからもう、
  独りじゃないよ」

 わたしが隣にいる。
 波一つない水面に零れた雫は、波紋となって広がった。
 不快ではなく、ただし美しいとは思えない。
 長くに渡って震えていた心の奥底では、どう受け取ったらいいのかわからない。
 嬉しくないはずがない言葉は、ついに最後の火を灯す。