「眼が覚めましたか? 迷子の迷子の、大きな子供さん」

 慈愛ではない。
 優しさではない。
 理解不能な輝きを宿した瞳が、秋の涼風となって包み込む。
 この季節に合った、心地よいと感じさせる色をしていた。

 レナにとって、狂人ではない。狂っていなかった。
 道を踏み外し、導く先にいる親をなくした。
 蹲って顔を伏せた、幼きショウ。

「……まだ、わかってくれませんか?」

 そう言うと、今度は両手が頬に触れる。
 優しく繊細に、ただ触れるだけ。

 首に纏わって

 トン――

 と、胸に頭が押し付けられた。

「……レナ?」

「簡単に死んでやらない、そう言ったのは嘘?
 わたしが力を貸すのは、死に急いでほしいからじゃない。
 生きてほしい。
 だから力を貸しているの。死ぬのが怖くないの?」

「こ……っ怖いに、決まっている。俺は……死にたいわけじゃ」

「わかっている。わかっているよ。
 死にたくない、そんなのは当たり前。
 だから、自分を軽くしないで」