立ち上がり諸手を広げ、それは確かに狂っていた。
 だが対面で座って見上げる少女は、手元を離れ心細しそうに泣いている誰かに見えた。それはきっと。

「なんだそれは。哀れみ、同情、蔑み? そんなに見下される俺は屑だな。ああ、確かに駄目な野郎だ! もうじき死ぬと、そんな事に怯えていた俺なんて――」

 氷を高々と振り上げて割った、綺麗な音がした。
 引っ叩かれたと、頬に熱が篭り始めてやっとわかる。

 一転の曇りのない宝石が見つめた、蒼い瞳を正面から。
 細く冷たい指先が熱くなった頬をなぞり。

 パシン――

 反対側の頬を叩いた。
 痛いとは思わない。
 どうして、止まってしまった思考が、その一言を浮き上がらせた。
 あの時あの日、太陽を背に現れたあの娘のような。
 よく似た少女が、目の前にいる。