「小さな頃から知っていた。
 倒れるたびに泣きそうな顔の母さんを。
 汗だくに痩せこけた父さんを。
 生まれた時から悪かったんじゃない、気付いたらこんな身体だった。
 倒れては驚かせ、楽しかった運動会はいつも見学。動くたびに迷惑を掛けた俺が、これから先はないなんて言い切れない。俺に誰かを幸せにする勇気はない、いつか迷惑を掛けるから」

「……でも、今は、治まっているんでしょう」

 口だけでしかないと思った。
 そんな、聞きなれただろう詭弁では、決して届かないと。

「魔術師と自覚できたから、身体の悪いところはわかるし治療にも魔力をまわせる。だから、余計にわかる。病巣である箇所に魔力が吸われ続けた。歳を食ったから魔力も高まり押さえつけられたんだろう。でも、衰えれば押さえがきかなくなる。いつか死ぬ。いつ、魔力量を上回って侵食するのか考えれば、無理ってものさ」

 強いと思っていた人は、ガラスより脆かった。
 溜め込んでいた闇をぶち巻く様は、見苦しく愚かしい。