答えはまさしく、中空を走っていたから。
 対岸へと繋がった太いワイヤー。
 いくつかは断ち切れ、残っていたのは彼が走るそれだけ。
 ひどく急で、姿勢を傾けるだけで加速していく。特殊な靴だろう、火花は上がるが炎上はない。見事にバランスを取って滑る姿は、路上スケートボードで滑る少年と変わらない。しかしその姿なんと壮大な。
 鞭の如く薙ぎ払う硬質糸を掻い潜るために跳ね、回り、少年らしさの中に威厳を含んだ行進。それはさながら、天から舞い降りてくる神の再臨。
 笑みを浮かべ震えはない。このままワイヤーが括られている壁へ激突するというのに。
 バランスを崩さず、タイミングを合わせ、EXCASは知らず計算していた。
 二秒と半後、その速度を殺さぬままに跳べば。