橋の下は硝子張り。ただし宇宙空間に繋がっているため、ただの硝子とは桁違いの強度だ。それでも三十メートル以上ある高さから落ちて、ただで済むと考えるほうがどうかしている。半壊の橋上から奈落へと落ちるだけ。この垂れ下がったケーブルは、蜘蛛の糸か。ただし、極楽浄土へは繋がっていない。
 何という滑稽さ。先の応酬に関わらず、彼は死の選択をしようというのか。
 このEXCASに人間らしい感情があれば、人間らしい知識があれば、そう表現し嘲っただろう。しかし無自覚に、これは嘲っていた。そうでなければ、任務を優先する軍用のEXCASが徒歩で彼の正面まで近付くだろうか。
 抵抗は無意味だ、と。音声として発せられる事はなかった。
 何、と。今までにない驚嘆を上げる事、それがこれに許された行為だった。
 靴の裏が焼け落ちるほどの音が聞こえる。景色は車より遅かったが、凄まじい速度で流れ去っていく。人間一人が、走る速度を越えている。
 地上から三十メートル上の橋の下。どうして走るという行為が出来る。
 人間がどうして、靴の裏が焼け落ちると心配をするのだろう。