『おい、レナ! スピード違反で取り締まるぞ!』
『えっ!? あっ?』

 車ならば路上に凄まじい焼け跡と怪音を残し、戦闘機なら転倒しかねない勢いでブレーキが掛かった。
 白い天使は驚きの表情で、文字通り眼中に入らなかっただろう仲間を見つめた。
 悪い意味ではない、純粋に、深い思考に阻まれていたのだ。

「危ないじゃないか。もう少しでぶつかるところだったんだぞ?」
『あ、と。ごめんなさい。ちょっと、急いでいて』
『こちらも同じだ。敵の本隊が進入してきたため、急いで帰還しなければならないんだが……レナ。進行方向が逆じゃないのか?』

 確かに。あのままの勢いならば、行き先は直進。
 敵がいるだろう、真っ只中。
 この一都部隊メンバーに知られた事が気まずいのか、または図星だったか。
 おそらく両方だろう。
 二の句を継げないレナに、呆れてゼムは溜息を吐いた。