黒い悪魔は嗤っていた。
 感情らしい感情はないが、第三者や製作者の視点から見れば確かに嘲笑だ。
 足元に列を成す蟻を踏み潰して。幼子が組み上げる砂の城を崩して。一生懸命に抗う命を、片っ端らから摘み取る事で。嗤っている。
 それは、なんて純粋。生まれたばかり故の、悪意のない見下し。
 優位だという事実の証。
 優位だと実感させる快楽。
 それらを貪るがために我を忘れて、使命を忘れて遊び呆けていた。

 だが。

 一陣の風が吹き抜けた。
 宇宙に、紫煙の風が。

 稲妻が突き抜けた。脳天から爪先まで、プログラムされた指令という名の電流が。
 目先の快楽をそれとは取れなくなり、彼方にある目標が何よりのご馳走に思えた。
 舌があれば唇を舐め、唾液が出れば垂れ流し、胃液が溢れる内を満たすために欲望が蠢きだす。
 群がる行列に、死と恐怖の実感を与える間もなく消していく。
 先ほどまで満たしていた対象たちは、もはや邪魔者以下に他ならない。

 どけ。

 声があったら叫んだだろう。
 感情があったなら、抑制する指令を壊しただろう。
 植物を象った悪魔は、近付くモノを薙ぎ払いながら。
 そこにいるご馳走へ喰らいつく。