ＥＸＣＡＳ

「亮太、運転できる？」
「学校指定の検定試験しか受けてない僕が、持っているわけない」
「以外に駄目な奴。佐伯さんもこの様子だし、これは置いていくしか」
「勿体ない事をするんじゃないの！」
　唐突に声。振り向けば遠いそこに詩絵留がいた。
　運転できるのか、ランサーが彼女を見つけた第一声がそれだった。予想に反し、詩絵留はわかりやすく首を振る。車に乗り込むと息切れし、整うのを運転席でランサーは待つ。
「勿体ない事するなって言うけど、だれも運転できないよ」
　亮太にそんな余裕はない、途切れ途切れに声を出す詩絵瑠を哀れに思った。だが当然の行為。お祭り騒ぎが一転して戦争になったのだ。目前で怪我をする者や、死ぬ者がいる。一秒後の未来で、横たわるのは自分か、そんな現実を感じさせる。
　特に己のクラスがあった階に銃弾の嵐が舞い降りた時には。そんな恐怖が具現化した世界で、どうして日常らしく振舞っていられる。
「何をしている、愚か者」
　見下しはない、年寄り臭い物言い。後部座席に、見知らぬ少女を連れたショウがいた。
「他人を労わる気持ちを持ち歩け。こんな奴が世界を駄目にしていくんだ」
「う、うるさいな。仕方ないだろ、誰も運転できないんだから」
「なら俺がしてやる。邪魔なお前達は後ろに乗れ」
　乱れた場を統制する、その姿はまさにいつも通りだった。