「一瞬だったから、きっと苦しくなかったと思う。それが、多分救いだ」
 救いという。
 苦痛もなくこの世を去れた事が、救いであると。
 だがそれは、
「そんなの、あるわけないだろう! 死んじまったら、救いなんてあるわけ、」
「言われなくたってわかっているっ! こっちが勝手に解釈した、自己満足だってな!」
 食らいついた胸倉の手は、逆に掴まれて交差する。
 このように、こんな形で本気で感情をぶつけ合うのは初めてだ。
 ひどく、空しい気持ちにさせられる。
「どうしたらいいかわからないんだ! 佐伯さんの仇を討てばいいのか。怖がって逃げ隠れしたらいいのか。何を、どうして、どうすればいいのか。わかるんなら教えてくれよ!?」
 溜め込んでいたすべて吐き出された。
 相談ごとなど受けないのに、こんな重い物を。
 興奮したランサーをなだめながら詩絵瑠が肩を抱いて引き剥がす。
 とても優しそうで、動じてなさそうだが、今の俺にはとてもそうは見えなかった。滲み隠された黒い衝動を、敏感に感じ取れた。
 彼女はEXCASを憎んでいた。
 そしてこの一件でさらに強くなっただろう。
 ただし理性的の年代になってしまった事が幸か不幸か。
 幼い頃はすべてのそれを憎しみの対象とし、今は敵対するあのEXCASや存在をすべて敵視している。
 戦える選択肢があったから、共に戦う動機がある者がいたから、
 たった三日でここまで覚悟ができている。