「落ち着いて。何も怖い事はない。泣き顔は、君の可愛い顔を曇らせるよ」
「……おにいちゃん、こわい事しない?」
「もちろんさ。かわいい子には特に。だから君には優しくする」
 何が面白かったのか、少女は赤くした瞳を細めて笑う。それにほっとした、ショウもまた嬉しそうに笑った。
 それでどうした、と穏やかにショウは言う。途端、少女は顔を歪めた。また泣き出すのか、と苦い顔をしたが、それに似た表情で少女は語りだす。
「……あっ、あのね、お母さんと、ともだちとはぐれちゃったの」
 内心思った。やはりそうか、と。この人混みで子供が一人でいる。付き添いの人、保護者とはぐれた。多くの事例だし、ありきたりだと思う。しかし、と真剣に考える。
「(さて、どうしたものかな。探してあげる、と言うのは簡単だ)」
 面倒だからではない。探して見つからなかったら、そうして泣き出す少女の姿ばかり思い描いてしまうの。彼は確かに賭け事や勝負事には強かったが、欠点として致命的な方向音痴。特に物探しや、見知らぬ土地に行けば何時間も彷徨ったままだ。
 ここは自らが通う校舎だ、迷うはずはない。普通ならば考えるがショウという人間は、何かを探すという行為を行えばどこでも迷ってしまう。自宅であっても物を探して、気づけば全く見当違いのところにいたとか。
 故に心配であっても、手助けをする事で目的から遠ざからないか、心配なのだ。迷っている間、少女の表情は暗く雨が降り出す前の顔になっていく。