食事に満足しながら校舎内へと向かうショウ。遅れる事四十分、絶対怒られると嘆息した。目的地は三階校舎の西棟。ちょうど間逆の方向だ。
「…………?」
 満腹になると眠くなる。彼は瞳を擦りながら持ち場へ向かい。
 何かの声が聴こえショウは立ち止まった。幻聴の類ではない。確かに聴こえるそれは、泣き声なのだから。周囲を見回せば、確かにその発生源がいた。
 小さな子供だった。射的屋で会った子と同じ年頃。
 時間はないのだから放っておけばいい。何より無関係。この現代社会で見ず知らずの者に親切にするなど稀。厄介事には関わらない、無関心が大多数。平和になるほど、他人を思いやる気持ちが欠けていく。この年代の者も適用するのが、
「どうした少女。こんなところで泣いていたらつまらないぞ」
 この少年には一切適用されないらしい。
「……おじちゃん、だれ?」
「口の言い方には気をつけよう。俺はおにいさん、だ」
 ヒッと息を飲む。それは何故怒られたと。怯えるのは無理もない。自分に非があったと自覚し、顔を顰めた。泣きそうな少女を見て、目線が合う高さまで膝を曲げた。その容姿からは想像が出来ないほど穏やかな笑み。
 彼の顔が醜いわけではない。むしろ美形の部類に入る。性格、物言い、雰囲気が彼を怖い人物に仕立て上げていた。だからこそ、その笑みに少女は心奪われた。