「まもなく、列車が発車します」
アナウンスに急きたてられ、改札からホームへたくさんの人たちが駆けていく。
数分おきに繰りかえされるその一連の動きをよそに、有梨は自販機のわきで呆けたように立ちつくしていた。
――女はやっぱ外見が、大事じゃないッスか――
あの男性の声が頭の中を何度も去来していた。
――おねえさんも、今のまんまじゃいやでしょ?これを使えばもっと――
生乾きの傷は、少しの風でも痛むものだ。
男性はもういないというのに、一度痛みだした傷は簡単には有梨を解放してはくれなかった。
ただじっと、平静が自分に戻ってくるのを待っていることしか、有梨にはできない。
手の中の缶コーヒーはすっかりぬるくなり、手をいたずらに水滴で濡らしている。
その不快な感触に有梨はふと我に返った。気づけば水滴は手をつたって床まで濡らしている。
有梨はハンカチを取り出そうと慌ててかばんを探った。
が、見つからない。有梨の眉が怪訝そうに寄った。
会社で使った記憶はあるのに……。
しかしいくら探してもハンカチは見つからない。
有梨はしかたなく軽く手をはらって水滴を落とした。
そしてコーヒーを口にはこぼうとしたとき、ふいに何かが横から突きだされた。