背中で舌打ちの音を聞いたようにも思ったが、

改札を抜けて有梨が振りかえったときには、すでに男性の姿はなかった。


安全圏に逃れた獲物にさっさと見切りをつけ、次の獲物を狩りに出かけたのだろう。



しょせん、ありふれた獲物だものね。

弱みを抱えた人間という、ありふれた獲物。



有梨の頬に自嘲するような笑みがうかぶ。




あのハンターは、有梨のすねに傷があると判断し、その傷に効くという薬をちらつかせた。




そしてくやしいことに、その見立てはまちがっていない。



有梨には、まだ癒えない傷がある。









深い、深い傷があった。