「事務所、ホントすぐそこだし、テスター取りにくるだけでいいから」 男性は、断りの言葉を口にする有梨をものともせず、しつこく追いすがる。 振りきれないまま、気づけば駅の改札口の目の前まで来ていた。 帰りにパン屋に寄ろうと思っていたのに……。 恨めしく思いながらも有梨はバッグに手を突っこんだ。 しかたがない。 明日の朝食のクロワッサンを諦め、有梨は定期入れをタッチパネルに押しつけた。