「ねぇ、私のノートに嫌がらせしてるの杉村さんやんね?」
誰もいない廊下を先に歩く杉村に向けて、今まで感じていたことを投げかけた。
「そうだけど」
『それがどうしたの?悪い?』とでも言いたげな態度に杉村の恐ろしさを感じた。
杉村は少しも悪いと思っていない、杏子にはそう取れた。
「・・・・・・」
杏子は、杉村の態度に呆れ果ててしまい、何も言うことが出来なかった。
杉村は、黙って階段を下り、体育館の横を通り過ぎ、プールの裏まで杏子を連れてきた。
―――一体、何をする気?
杏子がそう思った瞬間、建物の影から4人の女が出て来た。
上級生と思われる女たちは、それぞれにに杏子を睨んでいた。
そしてリーダー格である女が杏子に近づいて来た。
その女は、杏子でも知っている女だった。
数日前に健一にフラレたと噂になっていた、鷹崎妙(タカザキ タエ)だった。
「あんたが岡崎杏子?」
「そうですけど」
鷹崎の視線と同じように鋭い視線を向けて言い返した。
「たいした顔してないのに眞中健一に近づくな!」
「私は別に近づいてないし」
「どんな色目使ってんの?」
鷹崎は、杏子の顎を人差し指で持ち上げながら言った。
杏子は、顎に置かれている忌まわしい指を払うと、睨み付けながら鷹崎を罵倒した。
「あんたら、こんなことしてるから、あいつに相手されへんのちゃう?そんなんもわからんの?」
パチッ!
最後の言葉を言い終わるかい終わらないかの瞬間に、鷹崎の平手が飛んで来た。
「なにするんよ!」
「あんたみたいなブサイクが眞中くんに近づいてるのが腹立つねん!みんなこいつの手足を掴んで逃げられへんようにして」
鷹崎の命令通り、残りの4人は、一人ずつ杏子の手足を掴んだ。
「なにするんよ!」
杏子は振りほどこうと暴れるが、太刀打ちできなかった。杏子を睨み付ける鷹崎の目は、笑っていた。
―――この女、やばい・・・。
鷹崎が腕を挙げた瞬間、杏子は歯を食いしばった。
パンッ!
振り上げられた掌が杏子の頬に直撃した。
―――痛い・・・ほんま、なんで私がこんな目に遭わなあかんのよ!
ドンッ!
すぐさま、鷹崎は杏子の腹を蹴った。
目を閉じて、歯を食いしばり、無抵抗のまま鷹崎らの攻撃を受けようとしていた。
―――助けて・・・ガッくん・・・。
杏子は、いるはずもない彼の名前を心の中で呼んでいた。
「やめろ!」
その時、後ろから聞こえた声に杏子は安心した。
―――やっぱり、助けに来てくれたんだね・・・ガッくん。
杏子は、拘束されていた手足を離され、その場に座り込んでしまった。
「大丈夫か?」
手を差し延べてくれた相手の胸に飛び込んだ。
―――ガッくん・・・。
そして今まで我慢していた涙が溢れ出して来た。
「あんたらお似合いやん!眞中くんよりこの子にしたら?」
最後の最後まで暴言を吐き、女たちは去って行った。
杏子は、彼女たちに反抗する力さえ残ってなく、抱きしめてくれている胸の中で泣き続けていた。