杏子は、自分を守ってくれた彼が大好きだった。


でも、彼が友達に聞かれた時の答えが杏子を苦しめた。


『どんな子が好きなん?』


この答えは、最も興味のあることだった。


自分に近い答えであって欲しいと思いながら、杏子は聞き耳を立てていた。


『背が高い子かな・・・』


彼が口にした理想のタイプは、当時身長が140cmしかない杏子を示すものではなかった。


杏子を守ったのも話しかけたのも同情だったと思った。


杏子の初恋は、その時点で壊れてしまった。


でも、杏子はやっぱり優しい彼のことが好きで、忘れられなかった。


「だからね、もうさっさと忘れらなあかんのよ・・・」


ため息ををつきながら話す杏子の表情を見て、美穂は眉をひそめて見守っていた。


無理に忘れなくても・・・と言うように。


「・・・眞中くんはなんて?」


「俺がそいつのことを忘れさせてやるよって・・・」


「杏子。・・・忘れられそう?」


「わからん。でも、気持ちが軽くなった気がしたよ」


健一に話したことで、杏子はなにかから解放されたような気がしていた。


美穂はその後すぐに電車を降りた。


杏子は電車に揺られながら、健一に言われたことを思い出していた。