「今日は、委員会を決めるから、立候補する人があったら手を挙げてよ」
そう言うと古野は、黒板に委員会の名前を書き始めた。
「あんなの、立候補する人がいるんかな?みんながなるわけじゃないのにね」
美穂が後ろを向き、眉をひそめながら杏子に言う。
美穂は気持ちがよく顔に出る。
杏子は、その表情の変化を見るのが好きだった。
―――美穂めっちゃめんどくさそうな顔してるし。
「まぁ、前期と後期で1回はやらんとあかんから、楽な委員会に立候補するのもアリなんちがう?」
「そっかぁ。杏子、頭いいな〜」
―――そう言っても、何が楽かわからんし・・・。
結局、立候補する人がいなかったために、くじ引きで決めることになった。
「じゃあ、女子の体育委員は岡崎さんね」
―――最悪・・・体育委員って1番しんどそうやん。
「そして、男子の体育委員は眞中くんね。二人とも頑張ってね」
男子の体育委員が眞中健一と聞いて、杏子は机に突っ伏した。
彼が毎日女子生徒に囲まれながら、笑顔を振りまいているのをよく思っていなかった。
入学式から数日しか経っていないが、休憩時間には彼の周りには女子がたくさん群がっている。
大して話をしている様子はないが、時折見せる笑顔にその子たちは、うっとりしているようだった。
―――あぁやって、笑顔を振りまいていたら、女の子が寄ってくると思ってるのよ。そう、笑顔の安売り。・・・笑顔の安売り男!
杏子は、自分のくじ運のなさにうんざりしていた。
「杏子、頑張ってね!」
「美穂、あんた、自分が当たらなかったからって・・・楽しんでるよね」
杏子は、突っ伏していた顔を上げて、美穂を睨んだ。
「ふふっ」
隣の席の黒谷が急に吹き出したので、杏子と美穂は黒谷の方を向いた。
「黒谷くん、笑うなんて酷いわ」
美穂が膨れて言う姿に、杏子も吹き出してしまった。
「いや、仲がいいんだなと思って」
黒谷は、目を細めて笑っていた。