「ねぇ、眞中くん、今日カラオケ行かへん?」
「眞中くん、かっこいいね」
ホームルームが終わり健一の周りには女子が群がっていた。
入学式の次の日からこんな状況が続いていた。
健一は、猫なで声で話してくるのが嫌いだった。
そんな声を出したって、健一は興味は示さなかった。
今の状態から抜け出したかった健一は、佳祐を使って逃げようとした。
「あっ、ごめんな。佳祐が呼んでるから」
「えっ?俺、な・・・」
突然指名された佳祐は、動揺を隠せなかった。
佳祐が余計なことを言わないように、健一が言葉を被せた。
「なぁ?佳祐」
喋ろうとする佳祐の口を押さえ、引っ張るようにして教室から出た。
「モテる男は辛いな」
廊下に出て、厭味を込めて佳祐は言った。
「あんなの顔だけ見て寄ってくるだけやん」
―――見た目だけで俺のことを何も知らないで寄ってくる女なんて・・・。
「俺もそんな台詞言ってみたいよ」
佳祐が笑いながら言っている言葉も、健一はそこそこに聞き流し、真っすぐ前を見つめた。
その目線の先には、杏子。
―――お前は、俺に気付いてないんか?お前だって、今の俺がクールに話し掛けて、少し笑いかけたら、さっきの女みたいに寄ってくるんやろ?
健一は、唇を噛み締めて、杏子の後ろ姿を見つめながら歩いていた。
一定の距離を保ちながら。
しばらく歩いていると、曲がり角に差し掛かるあたりで、急に彼女が振り返った。
驚き、一瞬足を止めてしまったが、次の瞬間には、いつもの笑顔を向けた。
俺の顔を見るなり、彼女は顔を少し赤らめたかと思ったら、次の瞬間プイッと前を向いて角を曲がってしまった。
ほら、やっぱりお前もあいつらと一緒なんやろ・・・?
俺は、少し赤くなった彼女の顔を見てイライラしていた。
「健一、なんか顔赤いで?」
「はぁ?」
杏子の赤い顔を見て、健一まで顔を赤くしていた。
―――ありえへんし。
健一は口元を手で押さえ、先に歩く佳祐に追い付こうと歩いた。