「杏子ちゃん、制服似合ってるね」
紅茶を入れ終えた麗がリビングに戻って来た。
「ありがとう。でも華代(ハナヨ)ちゃんほどじゃないよ」
華代というのは、大慶高校を卒業したばかりの杏子のいとこである。
華代には隆博(タカヒロ)という双子の兄がいるが、今は東京の大学に通っているため、一人暮しをしている。
「華代ちゃんも似合ってたけど、杏子ちゃんも似合ってるよ」
佐知子は目を細めながら、嬉しそうに言ってくれた。
「杏子ちゃん、私ちょっと買い物に行くから、ゆっくりしていってね。華代も
そろそろ帰って来ると思うから」
「はぁい。ありがとう」
麗は、夕飯の買い出しに出掛けたので、家には佐知子と杏子の二人だけになった。
杏子は、リビングのソファーに座っている佐知子の隣に座った。
「学校は楽しいかい?」
「楽しいよ」
「よかったよ。おばあちゃん、心配してるんやで。小学校の時にいじめられてたから、また新しい所へ行ったらいじめられないか・・・」
「おばあちゃん、もう大丈夫やで!私ね、強くなったから!」
杏子は、佐知子の心配を払拭できるように、ニッコリ笑った。
「よかったよ」
「そういえば、杏子の大好きな男の子は元気なの?」
「えっ?」
―――大好きな男の子って・・・話したことあったっけ?
「背中が大きくて、いつも杏子を守ってくれる男の子がいるっていつも話してくれてたじゃない」
「いや・・・その子は・・・」
杏子は、話しにくくて、言葉を詰まらせてごまかした。
「おばあちゃんはわかってるよ。杏子の笑顔を戻してくれたのもその子でしょ?」
「・・・うん」
佐知子は、当時何も言わなかったが、わかっていた。そのことに気付いた杏子は、とても嬉しかった。
「でも・・・・・・小学校を卒業してすぐに引っ越してしまったの」
「そうやったんやね。今はどこにいるの?」
「わからない。お別れもできへんかったし」
「そうやったんやね。辛かったね」
今まで誰にも言えずに我慢して来た想いが溢れて来て、途中からは涙が止まらなくなっていた。
佐知子は、優しく杏子を抱きしめて、頭を撫でてくれた。