「ここ、姉貴が大学の友達に聞いて知ったんやって」


『White Magic』と書かれた看板には、ケーキ屋さんっぼいかわいらしい絵が描かれていて、その看板を見ている杏子の目は輝いていた。


「うわぁ」


杏子は、様々なケーキが並んでいるのを見ると、嬉しそうに声をあげていた。


―――かわいいなぁ。


少し腰をかがめて、子供のように目を輝かせてケーキを選ぶ杏子の姿に黒谷はドキドキさせられていた。


「これなんかいいんじゃない?」


そう言って振り返った杏子の顔がかわいくて、黒谷は自分の胸に収めてしまいたいという衝動にまでかられていた。


それでも何食わぬ顔をして杏子の指差す先を見ると、『当店オススメ』と書かれたケーキがあった。


―――甘そう・・・。


黒谷は、絶対に自分は食べられないと思いながら、店員に注文する。


「私もおばあちゃんに買って行こうかな?」


店員がケーキを詰める間もまだケーキを楽しそうに見つめる杏子が言った。


「おばあちゃんと一緒に住んでるの?」


「違うよ〜。帰りにおばあちゃんの家に寄って来てって、お母さんに言われてるから、お土産に買って行こうかな?って思って」


「そっかぁ」


黒谷は、最初自分の誘いを断ったのには理由があったことに安心した。


―――別に嫌われてるんじゃないんやな。


二人でケーキを受け取ると、店を出た。


「ごめんな。用事あるのに」


「いいよ〜。おいしそうなケーキ屋さん教えてもらえたし」


ニッコリ笑う杏子の顔があまりにもかわいくて、黒谷は、今すぐにでも「好き」だと言ってしまいそうだった。


「じゃあ、また姉貴にいい店聞いておくわ」


「ほんまに?嬉しいなぁ」


黒谷は、『また一緒に行こうな』という言葉を口に出したかったが、最後の勇気が出ずに、胸の中に閉まってしまった。


「じゃあ、バイバイ」


「バイバイ。また明日」


小さく手を振る杏子を見つめて黒谷も手を振った。