「そういえば、美穂はなんで自転車で通ってるん?」


二人のの最寄りの駅は同じだったが、美穂は入学当初から自転車で通っていた。


坂も多く、片道30分ほどかかる道は、決して楽なものではなかった。


「だってさ、電車に乗って、佳祐と真央が一緒にいるの見たくなかったから・・・」


佳祐に自分がこんなことを考えているなんて気づかれたくはなかったのだが、なぜだか自然と口から出ていた。


「ごめん。俺がはっきり言わなかったから・・・」


佳祐駕本当に申し訳なさそうにしているのを見ていると、美穂に悪戯心が芽生え始めた。


「じゃあ、俺も自転車で通うよ」


――やっぱり、そう言うと思った。


「それはあかんよ」


「えっ?」


美穂の否定に驚きを隠しきれない佳祐。

美穂は、その姿を見ていると、笑いを堪えられなくなりそうだった。


「だって・・・手とか繋がれへんやん・・・」


美穂は、自分の中でとびきり可愛らしく、言ってみると、案の定佳祐の顔は一気に真っ赤になり、動揺していた。


「ぷっ・・・」


美穂が思わず吹き出してしまうと、佳祐もすぐに悪巧みに気づいたようで、美穂を睨んだ。しかし、口角は上がっていた。


「お前〜騙したな!」


「騙される方が悪い〜」


―――逃げるが勝ち!


美穂は、自転車に乗り、佳祐から逃げようとした。


「おい、ちょっと待てよ!」


慌てて追いかけてくる佳祐の姿が滑稽だった。

しばらく走ると、佳祐も疲れてきたように見えたので美穂もいじめるのをやめた。


「はぁ・・・はぁ・・・お前、自転車に乗って逃げるのは反則やぞ」


「ふふふ。ごめん、ごめん。佳祐、電車来るみたいやで」


「あぁ・・・」


佳祐の曖昧な返事に美穂は違和感を抱き、佳祐の顔を覗き込み聞いた。


「どうしたん?」


「今日は、美穂と帰る!」


「えっ?」


美穂は、佳祐の言葉が予想外だったので驚いていた。


「俺が、運転するから、美穂は後ろに立てる?」


「う、うん」


「あっ、でもあかん。お前、スカート短いから立ったらあかん!」


首を思い切り横に振り「あかん、あかん」と言っている佳祐の様子を見て、美穂は笑いながら、「ありがとう」というと、佳祐は顔を真っ赤にさせていた。



「ということで、美穂が運転して」


「え〜。せっかく見直したのに!重いから嫌や!」


「うそ、うそ。歩いて帰ろう。いい?」


「うん」


大きく頷くと、佳祐は「よしっ」と口角をクッと上げて優しく笑いかけてくれた。


二人は、自転車で30分かかる道則を、1時間以上かけて歩いて帰った。


付き合い出した二人にとっては、とても新鮮で、楽しいひと時だった。