「・・・・・・別れたよ」


美穂は、下を向き、呟くように言った。

美穂の表情を見て、佳祐は再びベンチにもたれかかり、眉間にシワを寄せ目を閉じると、拳を握り怒りを堪えていた。


「佳祐には関係ないし!真央とうまくいってるから、余裕?あんたに同情なんてしてもらいたくないし」


そう言うと佳祐を睨んだ。


「はぁ・・・柏木とは付き合ってないし。あいつ彼氏いてるし・・・お前は、たまたま会ったところを見ただけ」


――柏木真央――



美穂と佳祐と同じ中学の同級生で、卒業式の日に佳祐に告白した。

美穂は、その話だけを聞き、二人が付き合ってると思っていた。


「付き合ってないん?」


「そうやで・・・で、滝沢先輩に何か言われたん?」


佳祐は、心配そうな顔で美穂を見つめる。


「・・・私、気付いたんよ・・・。あの日、佳祐が真央と一緒にいるところを見て、すごい嫌やった」



美穂は、今まで我慢していた思いを話始めた。


佳祐は、何も言わずじっと聞いてくれていた。


「それで、自分の気持ちに嘘をつけなくなって、滝沢先輩とは別れたの」


美穂の言葉に佳祐は何も言わなかった。


春の心地よい風が二人の間を吹き抜けた。



どれくらい時間がたっただろうか・・・。


おそらく数十秒もなかった沈黙が、お互いにとても長く感じていた。



「なぁ、美穂・・・俺もお前が滝沢先輩と付き合ってるのを聞いてショックやったんやからな・・・」


静かに話す佳祐の声が私の中に全て吸収されていくようだった。


―――それって、もしかして?


しばらくの沈黙の後、佳祐は振り返って、「俺らってもしかして両想い?」と、ニヤリと笑いながら言言った。


そんな佳祐に美穂もつられて笑ってしまった。



「ふふふ・・・そうかもね」


「そっかぁ・・・」


佳祐は両腕を頭の後ろに回し、空を見上げていた。


「・・・・・・」


美穂は、佳祐は近くにいすぎて、自分の気持ちに気付けなかった。


もちろん滝沢先輩も好きだったが、佳祐が自分以外の女の子と居るのが許すことができなかった。


―――自分の気持ちに気付くことができないなんて・・・情けないな。


「なぁ、美穂・・・」


「ん?」


美穂は、空を見上げている佳祐を見た。


「好きやで・・・」


佳祐は視線だけ美穂に向けて言った。


その優しい表情が、美穂のことをどれだけ想ってくれていたのかを物語っているようだった。


「・・・・・・」


こんな表情の佳祐を見たことがなく、美穂の顔がみるみるうちに真っ赤になるのがわかった。