そんな佳祐と杏子のやり取りを健一は自分の席から見ていた。
「次は英語やな。健一、宿題やったか?」
戻ってくるなり、何もなかったかのように戻って来た佳祐に対して、健一は腹を立てていた。
―――なんやこいつ、いきなりあいつに近づきやがって。
佳祐がなぜいきなり話したこともない杏子に近づいたのかを聞きたいと思っていたが、聞けないでいた。
健一の心は晴れないまま、一日の授業が終わった。
放課後、いつものようい佳祐と帰っていた。いつもはニコニコしている佳祐が今日に限っては違った。
―――なんやこいつ真剣な顔して。
「どうした?佳祐」
「なぁ、健一は、岡崎ちゃんのことどう思う?」
「はぁ?」
―――こいつなんで『岡崎ちゃん』なんて呼んでるんや?
「健一、岡崎ちゃんのこと好きなんか?」
「そんなわけないやん」
―――嘘や。
「じゃあ、俺が狙ってもいいんやな?」
「勝手にしたら?俺には関係ないし」
―――ちょっと待てよ!お前、この前まで『黒谷にとられるぞ』とか言ってたのは何やったんや?
「ならよかった」
佳祐は嬉しそうな顔をして健一のことを見た。
佳祐の表情を見て、健一は下唇を噛み締めて感情を抑えた。
―――はじめから、正直に気持ちを話しておけばよかった。
健一のそんな考えは、全て後の祭りで、家に帰ってからも溜息ばかりついていた。