「杏子、大丈夫?」
美穂は、杏子が心配で保健室に様子を見に来た。
「足掛けたの杉村さんやろ?」
美穂が、声をひそめて言った。
「えっ?」
「私、見えたから・・・」
「でも、確かじゃないし・・・」
「杏子は甘すぎるって!普段から杏子のことを睨みつけたりして気に食わないんよ!」
納得がいっていない美穂をなだめて、教室に戻った。
―――杉村さんがやったのわかってるよ・・・でも事を荒立てても何もならへんし。
「杏子ちゃん、大丈夫?」
杏子が教室に戻ると、クラスのみんなが心配してくれ、集まって来てくれた。
「うん、大丈夫やで。擦りむいただけやし」
みんなに笑顔で応えてると安心して、自分の席に戻っていった。
杏子が一息ついていると、
「岡崎ちゃん、大丈夫?」
と、聞き慣れない声で聞き慣れない呼び方をされたので驚いて顔を上げると、佳祐が立っていた。
「前田くん?」
―――あいつとよく一緒にいるよね・・・何の用やろう・・・。
「俺の名前知ってくれてるんやぁ」
嬉しそうに言う佳祐に杏子は戸惑いを隠せなかった。
「あぁ・・・うん」
―――そりゃぁ、あいつと一緒にいるから・・・目立つし。
「怪我したんやって、大丈夫?」
―――怪我の心配をしてくれて、来てくれたの?話したこともないのに?
「あぁ、うん」
「そっかぁ、よかった」
杏子の目の前の佳祐は、安堵の表情を示した。
ちょうどその時、チャイムが鳴ったので、それ以上話すこともなく佳祐は「じゃあ、俺戻るわ」と言い、席へ戻った。
突然話しかけられた――しかも変な呼び方で――ことに違和感を感じながらも、杏子は次の授業の準備をしていた。
―――一体、なんやったんやろう。