「位置について用意、スタート!」
中西のスタート合図と同時に、集団が前に進みだした。
杏子もスタートしようとした瞬間、違和感を感じた。
「キャー!」
スタートした瞬間、誰かの足が杏子の足に絡んできたので、前につんのめり、転倒した。
それに気づいて周りの女子からは悲鳴が上がった。
―――痛っ!
膝からは血が滲み始めていた。
杏子が立ち上がりながら前を見ると、杉村が振り返り、怪しげな笑みを浮かべていた。
―――なんで私がこんなことされなあかんのよ!
「岡崎、保健室行ってきたらいいぞ」
中西が声を掛けてくれたが、保健室に行こうとは考えていなかった。
「いえ、走ります」
―――あんな奴に負けてたまるか!!
膝からは血を流しながらも走り始めた。
杏子は、あっという間に杉村に追い付き、何もなかったかのように抜き去った。
後ろから舌打ちが聞こえてきたが、振り返ることもしなかった。
杏子は、杉村への苛立ちを走りにぶつけて、全力で走った。
途中、外周を走る健一の姿が目に入ると、さらに怒りが込み上げてきて、スピードを上げ抜き去った。
健一も杏子に離されないように走ったが、女子は内周、男子は外周を走っているということもあり、差を縮めることはできずにいた。
杏子はあっという間に1000mを走り終え、そのまま保健室へ向かった。