そして健一のことを完全に無視して更衣室へ向かった。
健一は、黙って杏子の後ろ姿を見つめた。
「今日は、持久走をするので、グランド集合です」
杏子が更衣室でみんなに連絡するとみんなの顔が歪む。
「え〜!」
―――そりゃそうよね。
杏子はブーイングを背に受け、着替えた。
杏子は、昔から長距離が得意で、中学の時はバドミントン部に在籍しながら、陸上部にも借り出されていて、部員よりもいい成績を残すほどだった。
素早く体操服に着替えると、美穂と一緒にグランドに出た。
「今日は女子は1000mのタイム録るぞ!」
中西が一人、張り切っていた。みんなからはブーイングが起きる。
そして、少し離れた所で集まっている男子からもブーイングが聞こえた。
「さっさと準備体操をして、始めるぞ!今日は男子が外側を5周、女子は内側を5周走るからな」
中西がそう言った瞬間、みんなの顔が輝き始めた。
「眞中くんが走ってるところ見れる〜!」
杏子は、騒いでいる周りの子達から視線を逸らし、男子の方に目をやった。
杏子の目に入って来たのは、健一と黒谷が話しているところだった。
普段話している所を見たことがない二人が話していることに、杏子は違和感を覚えた。
「早くスタート位置に並べよ~」
準備体操も終わったが、だらだらとしている生徒に中西が急かす。
杏子は2列目に陣取りスタートを待っていた。