「お前は大丈夫でも、向こうはお前が好きなんやぞ?」


「隆博くんが?」


杏子は、『何言ってるん?』とをバカにしたように言ったが、健一は明るく答える余裕はなかった。



「あの俺を睨む目と、お前を見つめる目の優しさは、間違いない」


「考えすぎやって!」


健一の言葉に杏子は、聞く耳を持たなかった。


「・・・なぁ、帰りも送ってもらうんか?」


「多分、待ってくれてると思うから・・・」


健一があまりにも真剣に言うものだから、杏子も言葉を選んでいるようだった。


「あーあかん!」


健一は頭を横に激しく振り乱し、全否定した。


―――こいつのことが好きだとわかっているのに、一緒に帰らせるなんて・・・できるか!


「あかんって言っても、もう暗いし・・・タクシーとか乗るほどお金ないし」


「じゃあ、あいつをここに連れてこい!」


「はぁ?そんなん無理やって!」


杏子は拒否したが、健一の中では引くという選択肢はなかった。


―――手を出すなって釘を刺しておかな!


「わかったよ。連れてくる」


しぶしぶ受け入れた杏子だったが、病室を出る時の表情は不満気だった。