「かわいい」


そう言い、健一はベッドの端を叩いて、座るように指示をした。



自分に背を向けてちょこんと座る杏子がかわいくてしかたがなかった。


―――なんで背を向けてるねん。


健一は上体を起こし、右手だけで杏子を後ろから抱きしめた。杏子は一瞬、身を縮こませたが、健一は優しく声を掛けた。


「俺も好き」


その甘い言葉は、病室の壁ではなくではなく杏子の胸に落ち、杏子は、健一に体を委ねた。


杏子は、健一の右手に自分の手を添えると、指を絡ませた。


杏子の髪に顔を埋めた健一は、優しく抱きしめ、首元にキスを落とした。一瞬杏子の体が強ばったが、すぐに力は抜けた。


「なぁ、こっち向いて」


もう少し抵抗するかと思ったが、杏子意外とすんなり体ごと健一の方に向けた。

それでも恥ずかしくて健一の顔は見れなかったが、健一はそれでもよかった。


そんな杏子の様子を見て、笑みを零すと、杏子の頬に右手を置いて、こちらを向かせた。


真っ赤な目と少し潤んだ目が、自分の為に泣いてくれた証であることが嬉しかった。