二人が出て行った後、病室はしばらくの間、沈黙に包まれて、隣の部屋から漏れてくるテレビの音しか聞こえなかった。

沈黙を破ったのは、杏子だった。


「なんで言わなかったんよ。助けたこと」


口調は、少し問い詰めるようなものだったが、健一の表情が変わることはなかった。


「あぁいうのは、自分で言うもんじゃないやろ」


ベッドにあぐらをかいて、後ろ髪を触りながら、少しめんどくさそうに言う健一を見て、なんだか安心した杏子は、再び涙を浮かべていた。


「心配したんやから・・・」


「すまんって・・・」


「アホ」


涙を拭いながら、一生懸命強がっって、健一を睨みつけた。


「正義のヒーローに向かってアホはないやろ!」


「アホはアホ!」


なおも続く言い争いに終止符を打ったのは、健一だった。


「かわいくないなぁ・・・さっき言ったのは嘘なんか?」


再び振り返された話題に、杏子急に居心地が悪くなった。


杏子は答えることはできず、キョロキョロと病室のあらゆるところに目線をやった。

そんな杏子の様子を「予想取り」とでも言いたそうな表情の健一は、さらに追い討ちをかけた。


「あ〜あ。録音でもしておくんやった」


視線を杏子から外し、窓を見るようにして言い放った。


「アホ」


「ほらまた言った」


―――私だって素直になりたいよ。でも、やっぱり恥ずかしくて。でも言わないとダメだよね。


再び二人の間に沈黙の時間が流れた。


杏子は俯き、自分の指を触りタイミングをはかっていた。