「お前、ひどい顔してるぞ」
目の前には、杏子の顔を指差しながら笑う健一がいた。杏子は今の状況が全く飲み込めなかった。
「あ、あんた死んだんじゃ・・・」
「勝手に殺すな」
「だって・・・電車にひかれたんじゃ・・・」
「そんなこと誰に聞いたんや?」
「美穂」
「江坂さん?何考えてるんや?まっ、いいか。いいこと聞けたし」
「いいことって・・・あっ!」
杏子は、さっき自分が言ってしまったことを思い出すと、顔が熱くなってきた。
「あ、あれは・・・その・・・それよりさ・・・なんで私に一言も言ってくれなかったん?」
「あぁ、自転車にひかれて腕を骨折したなんて恥ずかしくてお前に言えるかよ」
「自転車?」
「あぁ・・・もういいから!」
杏子の問い掛けに、恥ずかしそうに話を切り上げようとする健一の姿を見て、安心した。
―――生きてるんやね?無事やったんやね?よかった・・・。
杏子は、体中の力が抜けてしまい、ベッドの脇に置いている丸椅子に座り込んだ。その時、ドアをノックする音が聞こえた。
「はぁい」
健一が返事をすると、ゆっくりとドアが開けられて、そこには30代位の女性と小さな男の子が立っていた。
―――誰?まさか・・・隠し子?