「ごめんね」


隆博に謝り、杏子は美穂からの電話に出た。


また、帰りのことを言われるのかと考えたら、消えていたイライラが戻ってくるようだった。


―――でも私は絶対に謝らないから・・・。勘違いしたのが悪いんやから・・・。


「もしもし」


杏子の声が苛立っていたので、隆博は杏子の方に一瞬目をやった。


『杏子?』

「そうやけど?」


美穂は外にいるのか、周りがざわざわしていて、声が聞き取りにくかった。


『あのね・・眞中くんが・・・んしゃ・・・ひかれて・・・・・・向陽びょう・・に運ばれて・・・・・・』


―――えっ・・・電車にひかれた?病院に運ばれた?


杏子の目の前は真っ暗になると同時に、全身が細かく震え出した。

隆博は、すぐに杏子の様子に気づき、何があったのかを聞いた。

杏子は、胸の前で携帯を握りしめて、俯き目を閉じて震えながら、涙を堪えるようにして口を開いた。



「ガ、ガッくんが・・・電車にひかれた」


それだけを口にすると、杏子の目からは涙が一気に溢れ出した。

隆博は、杏子を落ち着かせるために、車をコンビニの駐車場に車を止めた。


「杏子、ガッくんって・・・引っ越したんじゃなかったっけ?」


優しく聞く隆博の言葉に、杏子声を詰まらせながら説明した。


「・・・隆博くんが、今日・・・学校で会った・・・眞中くんが・・・

ガッくんなの・・・どうしよう・・・ガッくんが・・・ガッくんが・・・」



とにかく杏子は泣きじゃくって、その後に隆博が掛けた言葉も頭には入らなかった。気が動転している杏子に隆博は一喝した。



「しっかりしろ!今、どこにいるか聞いたか?今から行くぞ!」


「・・・うん。向陽病院に・・・いるって・・・」


杏子は、泣くのを堪えながら、伝えた。


「わかった。行くぞ!シートベルトしておけよ!」


「はい」


―――どうしよう・・・どうしよう・・・あいつが・・・死んでしまう・・・。

嫌や・・・。そんなん嫌!


私、まだ・・・言えてないことがあるんやから・・・・。


逝かんといて!