「着いたよ」
車を止めた場所は、海開きをしたばかりとは思えないくらい閑散としていた。
「誰もいてないね」
「ここ穴場なんや。昔よく友達と来たんやけど、今でも誰もいないんやな・・・」
海を見つめながら、懐かしそうに話す隆博の横顔を杏子がじっと見ているのに気づいた。
「どうした?」
「ううん。なんでもないよ」
「見とれてた?」
冗談で言ったつもりが、杏子が動揺していたことに驚いた。
「ちょっとね~」
と、恥ずかしそうに線を斜め上に向けて隆博から視線を外して言う様子がまた可愛らしかった。
あまりにも恥ずかしかったのか、杏子はサンダルを脱ぎ捨てて、海に向かって走り出した。
白い波を追い掛ける姿は、まだ女の子という表現が相応しく、隆博はそんな女の子に優しい視線を送っていた。
夕日を背に遊ぶ杏子をずっと見ていたいと思った。
「隆博くんも来たらいいのに〜!」
「杏子、そろそろ帰らないと、みんな心配するぞ!」
―――遅くなったっていい・・・自分が家に連絡をすればいい話なんやから・・・。
そう思いながらも、自分の気持ちを隠して、一緒に居る罪悪感みたいなものがあり、杏子の誘いにも、真面目に答えてしまった。
「はぁい」
残念そうに海から出て来た杏子は、そのまま隆博の元に走って来た。