「隆博くん、お待たせ」


「うん」


制服を着替えて来た杏子は、笑顔で隆博の車に乗り込んだ。


「隆博くん、大学は楽しい?」


「う〜ん。杏子がいてたら、もっと楽しいんやろうな」


溢れ出す気持ちをすぐに言葉にしてしまうのを抑えて、遠回しに言う。


「隆博くんったら、そうやって私をからかうんやから」


隆博は、杏子は自分の気持ちに気付かないとわかってて、わざとあんな言い方をした。


例え、『好き』と言っても、『いとこのお兄ちゃん』としてと捉えることさえ、予想できる。

だから、言わない・・・わずかでも望みがあるのなら、その望みを持ち続けたい。『いとこのお兄ちゃん』という格付けをされるのだけは、待ってほしいと思っていた。


「杏子がかわいいから、からかいたくなるんやで」


「またそんなことを言う!」


―――そう言って、膨れる姿でさえかわいいのはわかってないん?

そんな顔されたら、今すぐ抱きしめて、僕のものにしたくなってしまうよ・・・。


隆博は、できるだけ杏子と二人きりの時間を過ごしたくて、少し離れた海まで車を走らせた。


『このまま二人だけの世界にならないだろうか・・・』


そんなことを隆博が考えていることすら知らずに、杏子は窓の外を見つめて「隆博くん、海見えてきた!」とテンションを上げていた。