隆博の隣にいる杏子は、窓の外の動く景色を見ながらさっきからイライラしていた。隆博にもその原因が健一であることはわかった。
―――杏子は、あいつのことが好きなのか?少なくともあいつは杏子のことが好きなんだろうな。
隆博は、杏子が自分とは違う男のことを考えているのが嫌で、話題を変えた。
「杏子、華代も今日は早く帰って来るって」
「そうなんや」
華代と聞いて、杏子の顔が明るくなるのを見て隆博は苦しくなった。
―――僕といたら、そんな表情をしてくれへんかったのに・・・。
妹の華代にまで嫉妬してしまう自分が情けなかった。
「なぁ、杏子は、僕と会いたかった?」
隆博は、自分でもなんてバカな質問をしてるんだろうと思ったが、頭より先に口が動いていた。
「隆博くん、どうしたん?会いたかったよ」
「ありがとう。杏子は優しいね」
『会いたかった』と言ってくれたことに安心したと同時に、その中に含まれている『いとこのお兄ちゃんとして』が深く深く、胸に刺さって来るのがわかった。
「優しくなんてないよ」
―――そんな悲しいこと言わないでくれよ・・・君はとっても優しい子なんやから。
「杏子、どこか行く?」
「どっかに連れて行ってくれるん?」
杏子の顔がパッと明るくなったことで、今までモヤモヤしていたことが一気に晴れた。
「海でも見に行く?」
「うん。その前に、制服を着替えたいな」
「わかったよ」
信号待ちで、隣の杏子の短いスカートから伸びる白い脚を見てしまい、ドキドキしてしまった。
―――やっぱりスカート短すぎやって。
周りと比べてもそう短くはなかったが、隆博にとっては、ドキドキするのに充分な短さだった。