『あのね・・・じゃあ、家族は?』
「家族?」
『うん』
「小学校の卒業式の後すぐに両親が離婚して・・・
兄貴は、もう高校卒業して、東京の大学に行くことになっていたから・・・
俺と母親だけ母親の実家のある九州に引っ越したんや。
それでまぁ、いろいろあって・・・俺が中3の時に、母親が再婚することになったんや・・・
その新しい父親ってのがさ・・・
海外を股にかける起業家ってやつでさ・・・
いわゆるセレブ?それでさ、仕事の都合で急にアメリカに行くことになって・・・
でも、俺さ英語嫌いやからさ行きたくなくって・・・
親父の会社の近くに引っ越して来て・・・今は、一人暮し」
『一人暮しなんや』
「俺、長いこと話したでな?感想それだけ?」
『いや、なんかさ・・・なんて言っていいかわからんから・・・』
「別に何にも言ってくれなくていいよ。・・・・・・抱きしめてくれたら」
『えっ?』
「冗談」
電話の向こうで真っ赤になっている杏子の顔が浮かんでくる。
「今度遊びに来たら?俺ん家」
健一は、何気なく言ったつもりだったが、改めて考えると、なんてことを言ってしまったんだろうと、後悔した。
『あ、うん』
「でも、佳祐たちと来いよ」
少し戸惑いながら返事をする杏子に動揺しているのをばれないように言った。
『・・・なんで?』
「・・・お前一人で来たら、襲わないでいる自信がない」
―――部屋で二人きりなんて・・・堪えることができるわけがない。
『アホ』
健一の耳の奥には、杏子の優しい声の余韻がいつまでも残っていた。
「これくらいでいいか?」
『うん』
「今度はお前のことも教えてくれるか?」
『また今度ね』
「うん。じゃあ、また明日な」
『終業式やね』
「そうやな。嬉しいな」
『何が?』
「お前に会えるから」
―――俺、何言ってるんやろう・・・。
健一は、自分で言っておきながら、真っ赤な顔をしていた。
そして、自分の言ってしまった言葉に再び後悔をしていた。