テスト休みに入って、杏子に会えない代わりに毎日のように電話やメールをしていた。
バイトの様子だとか、佳祐たちの話とか、猿渡と杉村を見かけたとか、小学生の時の話とか、たわいもない話をしていた。
そんな話でも二人にとっては貴重な時間で、かけがいのないものだった。
今日もバイトから帰ってから健一から電話してみた。
杏子は、いつもとは違い『あんたのこと教えて』と言った。
いつもの電話のはずが、電話の向こう側の杏子の声が真剣なことに驚くと同時に、自分のことを知りたいと言ってくれたことが嬉しかった。
―――やばっ・・・めっちゃ嬉しい。
部屋には誰もいないのに、ニヤける口元を押さえた。
「俺の何が知りたい?」
少し意地悪な言い方だったとは思ったが、今の杏子なら答えてくれそうだったので、聞いた。
『全部知りたい』
電話越しに聞こえる声が、本当に耳元で言われているようで鳥肌が立った。
なんでそんなことが言えるのに、『好き』って言われへんかな?
零れる笑顔を我慢して、真面目に話し始めた。
「5月5日生まれ」
『知ってる』
「AB型」
『やっぱり』
「やっぱりって、なんやねん」
『だってさ、絶対に二重人格やもん』
ふふふと笑いながら言う杏子の声が心地よくて、健一はいつまでも話していたい気分になる。
「佳祐と同じこと言ってるし。あとは、何を聞きたい?」
大したことは話していないが、自分が言ったことに反応してくれるのが嬉しかった。